第14章 薬研藤四郎の目覚め
『薬研、起きてごらん。君を待っているよ…。』
だれ…だ…?
一…兄…?
俺は死んだのか…?
そうだ…五虎退を庇って…。
そうか…。でも兄弟を守れたんだ…。それでいい…。
『五虎退が待っているよ…。薬研、戻りなさい…。』
戻るってったって…どこへ…。
『私の体をあげましたから…。大丈夫、君は戻れますよ…。』
唐突に何かに引き寄せられる感覚。
一兄…!待ってくれ!!一兄!!!
意識が浮上し、手足の感覚がする。刀ではない。人間の感覚だ。
薬研はゆっくりと目を開けると、五虎退の姿が見えた。
何度か瞬きをすると、ぼんやりとした輪郭がはっきりとする。
「…ご、こ、たい。」
喉が掠れて上手く声が出ない。
五虎退の向かい側に鳴狐と燭台切の旦那がいて、みんなで俺をほっとしたように見下ろしている。
「薬研、兄さん!!」
五虎退を見ると目にいっぱい涙を溜めて今にも泣きそうだ。
「ごめんね、ごめんなさい。僕が弱いばっかりに…!ごめんなさい…!」
そう言って遂に泣き出してしまった。
いいんだ。俺が好きでしたことなんだから。
そう伝えたかったが、声が上手く出なかった。
だから、代わりに膝で握った拳を撫でてやる。
ハッとしたように俺を見る五虎退に笑いかけてやる。
「い、いん、だ…。」
五虎退は益々顔をくしゃくしゃにして泣いてしまう。
弱ったな。泣かせたいわけじゃないんだけどな…。
「兄さん、ごめんね…。僕を庇って、くれて、ありがとう…!」
五虎退はそういうと俺の手をしっかり握りながら、とうとう声を上げて泣き出した。
まぁ、辛い思いをさせちまったし、しょうがないか…。
俺は暫く、そのまま五虎退が泣き止むのを待つことにした。