第61章 主の弱さ
「出立か?」
「そうらしいな。」
俺の呟きに三日月が答える。
「方向は東、か?鎌倉に行くのか。」
鶴丸の予測通りだろうな。時期は倒幕の流れ。足利尊氏はこれから幕府に反旗を翻すのだろう。
「人間が動いたなら時間遡行軍も動くかもしれない。」
小夜の顔つきが変わった。
日は既に西に沈みかけている。
夜戦での偵察は、小夜の夜目に頼りきりになるだろう。
「そうだな。気を引き締めてかかった方がいい。」
鶴丸は、小夜を鼓舞するように軽く肩を叩いた。
行軍は夜通し行われ、時間遡行軍の襲撃も何度かあったが、全て防ぎきった。
正直、レンから薬を持たされていなかったら厳しい状況に立たされたかもしれない。
次第に空が白みはじめ、辺りは篝火がなくても見えるようになってきた。鎌倉はもう目と鼻の先だ。
俺達は、少し距離を置いた場所から一行を見守った。
「このままクーデターが成功すれば任務完了ってとこだな。」
御手杵が軽くため息をついた。
気持ちはわかる。
この夜戦は気を抜けないものだった。
薬も残り僅かだ。
「このまま何事もなく終わってほしいものだね。」
少し緊張を滲ませた歌仙の呟きが届いた。
本当に。このまま無事終わってほしい。