第61章 主の弱さ
「伽羅坊、無事か?」
声の方を向くと、鶴丸の衣の端が少し破れているのが目に入った。相当手こずったと見える。軽症くらいは負っているのかもしれない。
「あぁ、問題ない。そっちは?」
「俺も問題ない。腕を少し掠ったくらいだ。」
「俺も問題ないぜ。」
「こちらも終わったよ。」
御手杵と歌仙が合流した。
「皆、早かったな。」
「僕も終わった。」
三日月と小夜も来た。だが…。
「小夜、キミ怪我してるのか?」
「…うん、少しやられた。けどまだ行けるよ。」
小夜の腕と足には痛々しい傷が刻まれていた。
俺は上着のポケットから塗り薬を取り出すと、小夜に近づいた。
出立前にレンから手渡されていたものだ。
「少しじっとしていろ。」
指に少し取ると傷を塞ぐようにひと撫でする。
すると、見る間にすうっと傷が引いていった。
話に聞いてはいたが、実際見ると面白い程効果的面だ。
「レンの薬か。」
鶴丸も興味津々にそれを見ている。
俺はしゃがみ込み、足の傷にも薬を塗る。
「凄いね。こんな薬があるなんて。」
感心したような歌仙の声が聞こえてきた。
ちらりと見ると他の奴等も興味津々に小夜を覗き込んでいる。
小夜はといえば、居心地悪そうに何とも言えない顔で目線を泳がせていた。
「薬研との共同作だとさ。」
「ほぅ。良い物を持たせてもらったな。」
鶴丸と三日月が楽しそうに笑う。
「これがあれば、どんな傷を負ってもへっちゃらだな。」
「そうだね。怖いものなしだね。」
御手杵と歌仙もそう言うが、これはそんな万能な代物ではない。あくまで軽症くらいのものしか治せないと聞いている。
「これを当てにするな。油断は命取りになるぞ。」
「わかってるって。そう怖い顔するなよ。」
笑顔、笑顔、と鶴丸に揶揄われ、自分でも知らず眉根を寄せていたことに気がついた。
くそ。こいつに宥められるとは…。
つい、ため息と共に眉間に指を当てた。
「そう肩肘張るなよ。力むといい結果を出せなくなるぞ。」
力むな、か。
まぁ、そうかもな…。
「…次に行くぞ。」
俺は鶴丸に薬を渡して、また陣の様子を探りはじめた。