第60章 主と酒と
「最初の頃は、黙って事を起こそうとしたり、全部一人でやろうとしたり…。レンはどうも、人に頼る、自分を知ってもらう、ってことがよく分からないらしい。
でも今は、相談くらいはしてくれるようになったんだ。」
進歩しただろう?と薬研は笑う。
けど、アタシから見たら、一線引かれてる時点でどうかと思ってしまう。
だが薬研は、それでもあの子を諦めようとは思わないのだから、あの子に対する想いの深さがアタシとは違うのだろう。
『心根がそう隔たりを作っているのかも知れぬぞ。』
三日月の言ったことが本当の意味で分かった気がした。
「それに、レンには一線を引いている自覚すらないんじゃないかな。あれはもう癖みたいなもんだ。
レンはそうやって今まで自分の身を守ってきたんだから、それを変えることは難しいんだろうさ。」
薬研は優し気に主を見遣る。
そういうもんだろうかね…。
アタシはみんなに囲まれて話をする主を見遣る。
いつか、あの子が何の憂いもなく心を開いてくれる日が来るのだろうか。
来るといいな。
その時はまた、一緒に酒を酌み交わして馬鹿騒ぎ出来たらいい。
そう思った。