第60章 主と酒と
一息ついている間にも、人が増え、主を囲んで楽しそうに話をしていた。
不意に、さっきのことが気になった。
「ねぇ、薬研。」
「なんだ?」
気になると、どうしても聞いてみたくなる。
「何で主は酒で記憶が飛ぶのを嫌がるんだい?」
いいじゃない、飛んだって。
二日酔いになるわけでもなくぴんぴんしてるんだし。
アタシはそう思う。
薬研は、そのことか、と笑う。
「ここに来たばかりの頃に、大将は酒でヘマしたことがあってな。人に知られたくないことを酔った拍子に話しちまったのさ。あれは、随分とショック受けてたな。」
「へぇ、そうなの。」
「あぁ。それから、もう酒は呑まないと決めたんだそうだ。」
アタシは納得した。それであのほっとする様子を見せたのか、と。
けれど、そこでふと、気が付いた。
主はアタシ達に自分を隠したいんじゃないか、と。
「…もしかして、主は誰に対しても一線を引いているのかい?」
薬研に尋ねると、彼は目を大きく見開いた後、少し苦笑を零した。
やっぱりそうか。
「これでもだいぶ、和らいだんだぜ。」
前はもっとあからさまだったのだろうか。
そう思うと、益々主が近寄りがたい存在になる。
だってそうだろう。アタシ達と審神者はもう赤の他人じゃないんだ。隠し事なんて必要ないじゃないか。
なのに…。
そんなアタシの胸の内を知ってか知らずか、薬研は言葉を続けた。