第60章 主と酒と
頭が痛い。
吐き気がする。
「ほらほら、威力が落ちてますよ。」
カンカン、と木の打ち合う音が道場に響いた。
速すぎて、動きを目で追うだけでも目眩を起こしそうだ。
まるで蜻蛉にでもなった様だ、と頭の片隅で思う。
「振り回すのはいいですが、ある程度狙いを定めなければ。」
上へ下へと縦横無尽に屋内を駆け回っている筈なのに、主は息一つ乱していない。
と、突然ふっ、と目の前から主の姿が消える。
驚く暇もなく、ひた、と冷たい感触が首に当たり、ずん、と肩に錘がかかる。
「こんな風にすぐに弱点を突かれてしまいますよ。」
アタシの首、頸動脈辺りに木刀を当てた主が、上に乗っていた。
とても人間技とは思えない。
誰だ、主をか弱い子なんて言ったのは。
…アタシだわ。
「もう…、げんかい…。」
アタシはそのまま木刀を手放し、前のめりに突っ伏した。
と、同時に主がすたっと飛び降りた。
「お酒は程々に。」