第60章 主と酒と
「ほんとに可愛いな、レン!どうしちゃったんだ?」
鶴丸は我慢しきれなくなったのかレンをすっと抱き寄せる。
「あっ!ずるい!俺だってぎゅっとしたい!」
「いいや、次は僕!」
「俺はまだ離さないからなっ!」
あっという間に、いつもの光景だ。
「どうかしたのかい?」
「何やってるんだ、こいつ等は。」
燭台切と大倶利伽羅が加わった。
着替えてきたのだろうか。それにしては随分と時間がかかったな。
「あぁ…。僕達は先にお風呂に入ってきたんだ。時間がかち合うとのんびり入ってはいられなくなるしね。」
僕の疑問を正確に読み取った燭台切が答えた。
彼は人の感情を読み取るのが上手いと思う。
「そうだったのか。」
「燭台切、主が笑うたんや!まっこと可愛いらしかったぜよ!」
陸奥守が興奮気味に割り込んできた。
ちょっと落ち着いたらいいと思う。
気持ちは分かるけど。
「珍しく屈託ない笑顔だったよ。びっくりするくらい。」
穏やかに言った僕の言葉が俄には信じられないようで、2人は顔を見合わせる。
「屈託ない笑顔…。」
「想像つかないな…。」
彼等はレンを見るも、既に彼女は半分夢の中。鶴丸達に取り合いをされても、されるがままに右に左に揺らされている。
よくこの状態で寝れるものだな、と若干呆れてしまう。
「それは是非とも見たかったね。」
燭台切が笑いながら彼等を眺める。
大倶利伽羅は反対にため息をついていた。
「…俺は先に飯を食ってる。」
そう言って少し離れた所に腰を下ろすと、黙々と食べ始めた。