第60章 主と酒と
それに興味を示して、呑んでいた面々もどれどれと、レンの顔を見に正面に回る。それと同時にすっと彼女の表情が抜けてしまった。
「…いつも通りじゃないか。」
次郎さんがレンの顔を見ながら言うが、僕は、僕と鶴丸は確かに見た。
「主、もっぺん笑うてみ。」
「レン、少しにこっとしてみよ。」
陸奥守と三日月が変わる変わるレンに話しかけるが、彼女は只々眠そうにそれを眺めるだけだった。
「こうじゃ、こう。」
焦れた陸奥守が、いつものにかっとした笑顔を浮かべて、レンに見せた。
すると不思議なことに、それに釣られたかのようにレンがにぱっと笑ったのだ。
「「「「おぉ〜!!」」」」
僕等は思わず歓声をあげた。
レンの屈託ない笑顔なんて初めて見たのだ。声をあげたくなるのも無理はないと思う。
「なになに?」
「なんかあった?」
近くで寝ていた加州と大和が、目を覚まして舌ったらずに言い、むっくりと起き上がる。
「今笑ったぞ!レンが笑った!」
鶴丸が目を輝かせて言うと、それを聞いた加州達は寝ぼけ眼を大きく見開いた。
「「どこどこどこ?」」
声まで揃っているのが少し面白い。
残念なことにレンの顔は、元の無表情だ。
「レン、もう一回!もう一回笑って!」
「レン、にこってやってみて!」
加州と大和がレンに詰め寄るが、やはり彼女は眠そうに2人を眺めるだけ。
「ちくっと、どいちょってみ。」
陸奥守が2人を退かせてレンの正面に座ると、彼女は自然とそれを目で追う。
「こうじゃ、こう。」
先程と同じように陸奥守がにかっと笑うと、やはり釣られたようにレンがにぱっと笑う。
「か、かわいぃ。」
「どうしちゃったの、レンっ。」
大和守と加州は、赤い顔を両手で覆うと天を仰いだ。
まぁ、気持ちは分かる。
普段、無表情、無感動だからこその破壊力と言うべきだろうか。