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君に届くまで

第60章 主と酒と



鶴丸は次郎さんの真剣な目に、苦笑を浮かべた。

「…先代、先先代と、俺達は主に恵まれなくてな。それは悲惨だった。
仲間同士の殺し合いや手入れの放置、疲弊して折れていく仲間、禍ツ神に堕ちる仲間…。
ここで起きる出来事は、日々そんなのばっかりでな。」

鶴丸の寂しそうな言葉に、珍しく三日月さんが悲しそうに俯いた。

「そんな時に現れたのが、傷だらけのレンだった。」

どこか懐かしむようなそれには哀愁が混じっている。

「俺達は最初から親しかったわけじゃないんだ。特に俺は、レンと喧嘩をしたことだってある。」

鶴丸は自重気味に少し笑った。

「…レンは、それまでガラクタのように粗末に扱われていた俺達を、人として扱ってくれた。」

普段、忘れがちではあるけれど、顕現した僕等は刀であり、”物”だ。生きているように見えて、実は微妙に違う。

「審神者なら、俺達を大切にして然るべき、なんて思っていた頃があった。
だが、そう思わない人間の方が、世の中きっと多い。俺達はそれを身を以って知った。
だからこそ、レンみたいな奴は貴重なのさ。出自に拘らず、俺達に人として向き合える奴が。
俺達がレンと親密に見えるんなら、それは俺達がレンを大切にしているからなんだろうな。」

鶴丸は笑う。

「…実は俺も一度折れている。」

三日月が俯いたまま、ぽつりと呟いた。
折れて、いる?
なら、今ここにいる彼は…。

「禍ツ神となった俺は、一度鶴丸に折ってもらった経緯があってな。」

僕は驚きながら鶴丸を見ると、彼は悲しそうにふいっと顔を逸らした。

「けれど、何故か俺の柄が残っていたそうだ。
鶴丸がレンに修復を願い出てくれてな…。」

三日月は手元のお猪口をぐぃっと呷った。

「再び顕現した時も、俺は禍ツ神になりかけた。けれどそれを戻してくれたのも、またレンだった。」

三日月の瞳が薄らと光り揺れていた。
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