第60章 主と酒と
「あの時は、僕は招かれざる客だったのかと、暫く悩んでしまったよ。」
一つ息をつくと、やれやれと肩を竦めた。
「まぁ、初対面であれはね。そう思われても仕方ないかな。」
燭台切も苦笑いで返した。
その後、燭台切と台所を切り盛りし始めると、レンがちょくちょく厨を訪れると知り、そこで親しくなった。
彼女を掴むには、先ずは胃袋を掴むといいと知れたのは幸運だった。
曲がり角を曲がったところで、広間から明かりが煌々と漏れているのが目に入る。
がやがやと人の声や物音が響いている。
「早速やっているね。」
僕等が広間を見渡すと、早くも大半が屍と化していた。
「ちょ…、もう無理ですって…。」
その中でもさすがと言うべきかレンは辛うじて正気を保っているようだ。
だいぶ潰されかけているが…。
「だ〜いじょぶだって。まだイケるイケる!これなんかどぉ?少し甘くて口当たりさっぱりだよ!」
そして、誰も助けに入っていない。
否、助けられないでいる。
「次郎さんに捕まったのが運の尽きと諦めるしかないだろうね。僕も一杯くらいはご一緒したかったんだけど。」
この状況は最早笑うしかない。
「…明日の朝はしじみ汁かな。」
隣を見ると、やれやれと腕を組んでため息をつく燭台切があった。
「一応、ボク達もがんばったんだよ?」
横から声がかかりそちらを向くと、赤い顔をした乱がひらひらと手を振っている。
呂律が若干怪しいのは気のせいではないだろう。
「でも次郎さん強すぎ。レンより先に撃沈しちゃった。」
頭がふらふらと揺れて覚束ない。
体を起こそうとしては突っ伏してを繰り返している。
彼の周りに目をやれば、薬研、厚、五虎退がひっくり返っている。
僕と燭台切は顔を合わせて苦笑を浮かべた。