第60章 主と酒と
「僕は歌仙兼定。風流を愛する文系名刀さ。どうぞ宜しく。」
「レンです。よろしくお願いします。
光忠、あとお願いします。」
レンは挨拶もそこそこに、その日の近侍だった燭台切に世話を任せてしまう。
「え、僕?丸投げなの?」
唖然として困惑する僕をちらりと見て、燭台切は苦笑した。
「はい、本丸の案内をお願いします。私はまだ刀装の作成もあるので。」
レンはそのまま後片付けをし始めてしまった。
情緒もへったくれもない。
「OK。わかったよ。任された。」
燭台切はやれやれと肩を竦めて立ち上がった。
「行こうか。」
「あ、あぁ…。」
僕は後ろ髪引かれる思いでレンを振り返ったが、彼女にはその哀愁は無く、さっさと別の作業を始めてしまっている。
何だか少し遣る瀬なかった。
「ごめんね。本当はもう少し一緒にいたいよね。」
声の方を向くと、苦笑を浮かべる燭台切があった。
「そうだね。…出来ることならもう少しいたかった。」
僕は自然と俯いてしまうままに床を見下ろした。
「…悪気はないんだ。あれがあの子の普通なんだよ。だから気にしないでいてくれると嬉しい。」
もう一度僕はレンを振り返る。
そうは言われても、ちっとも仲良くなれる気がしない。
「さて、行こう。先ずは君の部屋へ案内するよ。」
燭台切は気を取り直すように僕を促した。