第13章 薬研藤四郎の手入れ
レン達がそんな実のない話をしていると、ムクリと五虎退が起き上がった。寝起きでぼーっとしているのだろうか。起き上がったままピクリともしない。
レンは五虎退に薬研のことを伝えようと近づくと、彼は虚空を見ながら静かに涙を流していた。
レンは思わず息を呑む。
「五虎退…。」
そっと五虎退の肩に手を置くと、彼は徐にレンを見上げた。
「一兄が、薬研兄さんを助けてくれました。」
それだけ言うと五虎退はレンにぎゅっとしがみ付き、肩を震わせて泣き始めてしまった。
レンは彼が落ち着くようにと、抱きしめて背中を摩る。何があったのかはよくわからないが、薬研が治ったことと関係がありそうだ。
お付きの狐も側に寄り心配そうに見守った。
すると、隣で寝ていた鳴狐がムクリと起き上がった。
「鳴狐さん、おはようございます。」
レンは鳴狐に声をかける。
「五虎退の様子が変なので少しみて…。」
レンは言いかけた言葉が止まる。お付きの狐も鳴狐の様子に息を呑んだ。
ゆっくりとこちらを見た鳴狐も泣いていたのだ。
「何があったのですか?」
お付きの狐が尋ねると、
「一兄が、自分の体を、分けてくれた。
薬研はもう、大丈夫だ。」
レンは息を呑み静かに驚いた。薬研が治っていることを見てもないのに知っていたからだ。
鳴狐の言葉を聞いて五虎退が顔を上げる。
「鳴狐さんも一兄に会ったのですか?」
鳴狐は黙って首を縦に振った。
五虎退はまた肩を震わせて泣き出し、鳴狐にしがみ付いた。鳴狐は五虎退を強く抱きしめ返す。
レンは薬研の側に行くと、作業を始めた。
たぶん、いくらもかからないだろう。仕上げをするようなものだ。
玉鋼を5、6個使ったところで修復は完全に終わった。
後は薬研が目覚めるのを待つだけだ。