第60章 主と酒と
だが、主はため息をつく。
「…何がよし、なんですか。」
実に嫌そうだ。
普段変わらない無表情を見ていたせいか、感情が表に出ている彼女の様は実に面白い。
「いいじゃん、減るもんでもなし。」
「そうそう、ちょっとだけ!」
加州と乱の援護に、主はじと目で2人を見遣る。
「いいじゃん。レンを知ってもらういい機会だよ?みんなの審神者なんだし。」
大和守のいい笑顔に主は苦い顔をする。
「他人事みたいに…。」
ぶつくさ言いながらも主は立ち上がる。
どうやら、やってみせてくれるようだ。
なんだか少し可笑しかった。
どうやら今代の主は押しに弱いらしい。
彼女は近場の柱に片足を足をかけた。
何をするのかと思いきや、そのまま重力を無視するかのように歩きはじめ、柱の中程で立って見せた。
アタシは開いた口が塞がらない。
「これです。」
「「すっげぇ〜!!」」
御手杵と陸奥守は興奮したように声を上げ、振り返ると、兄貴や日本号もぽかんと口を開けて驚いていた。
主は柱からすとん、と音もなく降りると、何事もなかったようにまた席につく。
これはとんでもない子なのかもしれない。
アタシは、か弱いと思っていた主の印象を改める。
「あんた、すっごい奴だったんだね!」
アタシは俄然興味が湧く。
「面白いな、お前さん。」
「他には何が出来るのですか?」
日本号と兄貴も同じようで主の方に耳を傾ける。