第60章 主と酒と
「あ、あったあった。」
アタシは目的の物をよいしょ、と持ち上げると、勝手口から中へと入った。
「じゃ〜ん!ねぇ!今から宴会しよう!!」
ひと抱えもある大きな酒樽を、どん!と中へ運び入れて、木蓋をトントンと叩く。
「…はい?」
手前にいた主が怪訝な顔で立ち止まる。
次いで視線は酒樽に向くと、僅かに顔を引き攣らせた。
それを見て、自分の口角が上がるのが分かった。
「アタシの酒を大盤振る舞いしちゃうからさ!今から呑もうよ!!」
「いや、お酒は…」
予想通りのお断りが即座に出るが、アタシはそれを遮った。
「見たよ〜。」
主にずずいと顔を寄せると、分かりやすく引き攣った。
「この間晩酌してたでしょ?」
実際に見たのは陸奥守だが、この際口実になれば何でもいい。
案の定、主のぴくりと眉が動いた。
「さぁ、見間違いでは…?」
嘘が下手だなぁ、と思いながらにんまりと笑う。
「小さな徳利もって、審神部屋の出窓から外を眺めながら呑んでたよね?」
あたかも見ていたかのように迫れば、彼女は分かりやすく視線を逸らした。
「…ほんの少し呑んでいただけですって。」
しくじったと言わんばかりの仕草を見るのは新鮮だった。
いつもの無表情、無感動が嘘のように感情が分かる。
可愛いとこあるじゃないか。
「一人酒するくらいならアタシ達と呑もうよ!」
逃がさないという意思をしっかり乗せて、がっちりと肩を組む。
「…す、少しだけですよ?」
主がそれに及び腰で答えるのが面白い。
よし、言質は取った。
ぱっと主から手を離すと、彼女の肩を軽く叩く。
「よし、決まり!これ運んどくよ!」
アタシは上機嫌で酒樽を広間へと運び始めた。