第60章 主と酒と
「…今度の主って…、謎だらけだよな…。」
御手杵はレンの後ろ姿を見ながらぼやく。
その言葉に、アタシは身を乗り出した。
「やっぱそう思う?アタシもさぁ、そう思ってたんだよね。何考えてるのかさっぱり読めないし。」
「そうなんだよな…。」
「物事にあまり動じないお方のようですね。」
兄貴がお猪口を傾けながら淡々と言う。
「酒に誘うても、なかなか呑まんしなぁ。」
「酒が嫌いなのか、呑めないのか…。俺も誘ってみたんだが、断られちまったんだよな。」
陸奥守と御手杵は腕を組んで考え込む。
「俺もだな。あっさり断られた。」
日本号もそう言って笑った。
ふと、陸奥守が思い出したように面を上げた。
「そういやぁ、この間。主が窓辺に座って一人酒してるんを見たぜよ。」
なんでも、夜中に目が覚めて、ふらっと外へ散歩に出たそうだ。
たまたま審神棟の前を通りかかると、二階の高欄に片膝立てて腰掛ける主を見かけたそうだ。
その手には小ぶりの瓢箪が握られていたのだとか。
「酒が呑めんのに、晩酌なんてするがやろか?」
首を傾げて言う陸奥守に、アタシは身を乗り出した。
「そうなの?な〜んだ!じゃ、いける口じゃん!」
「…無理矢理呑ますのは良くありませんよ?」
兄貴はアタシの顔を見て何をするか悟ったらしい。
呆れながら釘を刺してきた。
だが、引く気はない。
今までは呑めないと思っていたから遠慮していたが、呑めると分れば誘わない選択肢なんてない。
「だ〜いじょぶだって!ほんのちょっとだけ!心配性だな、兄貴は!」
さて、どうやって誘い出そうか、と考えながら喜び勇んで駆け出した。