第60章 主と酒と
「っていうか、あんた何やってんだい?」
改めて見ると、躯体の割に大きなそのお盆はとても重そうに見える。
「配給です。」
「それ言うなら配膳な。」
御手杵は、真顔で言う主に突っ込んだ。
主は、ちらりと御手杵を見てから、手元のお盆を見る。
「しょ…光忠の手伝いですよ。明日お菓子を作ってもらうので。」
光忠…。
あぁ、燭台切光忠か。
下の名前で呼び合っているのか。
胸にちくりと小さな棘が刺さるが、気付かぬふりをする。
ふと、日本号を見ると、彼は呑んでいた格好のまま固まっていた。不思議に思い、視線を追ってアタシも固まった。
向こうに2人、主がいる。
「お、おいおい。あんたが何人もいるぞ?どうなってるんだ?」
日本号が指を指しながら問うと、主もそれを視線で追う。
「あぁ、影分身です。人数が多いんでこの方が効率がいいんですよ。」
言いながら、手元の皿を配り始める。
「かげぶんしん…?」
日本号がおうむ返しに言葉を返す。
聞き慣れない言葉だ。
「まぁ、神気でコピーを作った、と考えといてください。私も上手くは説明できません。」
主は手早く皿を置いていくと、次の席へ行ってしまう。