第60章 主と酒と
日本号は豪気な男だった。
大らかで、気が良くて。何よりアタシの酒について来れるのがいい。
「よぉ。わしもちぃと混ぜてくれんかの。」
声がかかり、見上げると大らかに笑った男が立っていた。
「あんた、確か…。」
「わしか?わしゃ、陸奥守っちゅうんじゃ。陸奥守吉行。以後、よろしゅう。」
陸奥守はそう言って朗らかに笑う。
そして隣に腰を下ろし、手近にあった酒と盃を取ると、景気づけに一杯呷った。
「かぁ〜!うまいなぁ!」
心底美味しそうに呑む姿は、見ているこっちも気分が良くなる。
「よろしく!アタシは次郎太刀ってんだ。
陸奥守は最近来たのかい?」
「あぁ、ついこの間な。おんしと然程変わらんぜよ。」
「そう。じゃ、あんたも新入りってわけだ。」
何気なく出てしまった棘だった。
ささくれ立った心内など見せる気は更々なかったのだが…。
「まぁな。だがまぁ、誉を仰山取って主に仕えれば、古参には引けを取らんやろ。」
だが、陸奥守は気にした風もなく、にかっと笑ってそう答えた。
「けど、おんしの気持ちも、ちぃとはわかるぜよ。」
「え…。」
「主と古参の奴等には、わし等にはない親密さがある。
主はあないなお人にも関わらず、古参の奴等はものともせんし、主は主でわし等新参者より古参の奴等を重用するきらいがあるきな。」
そう。古参の者と新参の者との間には見えない僅かな線引きがあった。
主は来るもの拒まず去るもの追わずなタチなのか、近づけばそれなりに応えてくれるが、それもあくまで淡々とした風は崩さない。いいのか悪いのか、好きなのか嫌いなのか、いまいち掴めないからやりにくいったらない。
古参の者と同じように近づきたいのに踏み込めない。
そのジレンマが、いつしか苛立ちに変わっていた。