第60章 主と酒と
「…主殿は古参を重用する、というよりも、実力のある者を重用している印象でしたが…。」
兄貴が酒を口にしつつ静かに言うと、陸奥守が少し肩を竦めた。
「ま、それもあるがやろ。特に鶴丸国永、燭台切光忠、加州清光なんかは頻繁に戦場に出ちゅうきな。
やき、わしも強うなって垣根を越えたいんじゃ。」
陸奥守の言葉は真っ直ぐなもので、なんの衒いもない。
それは、アタシの中にもすとんと落ちてきた。
「誉を仰山取りたいってのは賛同するぜ。刀たる者、強くてなんぼだからな。」
日本号がにやりと笑いながら同意を示す。
その様はさながら獰猛な虎のようだ。
アタシは思わず身震いする。
怖い?まさか。
血が沸る。
「では、私も負けてはいられませんね。」
それは兄貴も同じだったようで、声が僅かに弾んでいた。
「アタシだって負けられないね。誉を沢山取ってくるのは、このアタシだよ。」
昂る気を隠しもせず挑発めいたことを言えば、彼等は気分を害すどころか楽しそうに笑い始めた。
「よし!我等の前途を祝して!」
陸奥守が盃を掲げる。
それにアタシ達は応える。
「「「「乾杯!」」」」