第60章 主と酒と
ふと、帯に下がっている酒のことを思い出した。
そうだ。
「ねぇ!あんたも一杯やらないかい?アタシのを分けてやるよ。」
アタシは一升徳利を持ち上げて、少し振って見せる。
だが主は、徳利を見てからすっと目を逸らしてしまった。
「…いや、お酒は遠慮します。」
随分と嫌そうだこと…。
「そうかい…。」
好きな物を否定されたような気分だ。
自然と肩が下がってしまう。
だがまぁ、苦手なら仕方がない。
「ま、いいや!今後ともよろしく〜!」
アタシは気を取り直して立ち上がると、唯一の出入り口から外に出た。
さんさんと照る日差しが心地良い。
建物は華美じゃないが質素というわけでもない。
「…いいねぇ。」
アタシは一通り気が済むまで見て回った。