第59章 呼び名
「レン!」
名を呼ばれたと同時に、胴に腕を回され三日月から引き離された。
何事かと引き離した人物を見上げると、そこには焦った様子の鶴丸が…。
「三日月ばかり見ないで、俺も見てくれ!」
その必死の様子に、レンは思わずぽかん、と彼を見返した。
レンの前にいた三日月は、顔を背けて吹き出し肩を揺らす。
遂に本音が出たな、と彼は思う。
「あ…。」
我に返った鶴丸は、瞬時に顔を朱色に染めた。
ーやってしまった…。
鶴丸は、レンから片手を離して顔を隠すように覆う。
だが、隠しきれていない端々や耳たぶまでもが赤々と染まっているのが丸わかりだ。
「見てるこっちも恥ずかしいかも。」
太鼓鐘も両手で顔を覆いながら、指の隙間からちらりと様子を伺う。
「ふふ…。」
レンは思わず笑ってしまった。
ーそんな必死になることないのにな…。
「私達は家族です。誰かが特別じゃない。みんな特別です。違いますか?」
鶴丸は覆っていた手を外してレンを見返した。
そこには穏やかに笑うレンがいた。
ニヤリと笑うでもなく、冷たく笑うでもない、年相応の可愛らしい自然体の笑顔がある。
鶴丸は目を瞠った。
彼の中に稲妻に似た何かが走り抜け、得も言えぬ多幸感に包まれる。
「…そうだな。俺達は家族で、みんな特別だ。」
まだ赤みの引かないままの顔で、鶴丸は嬉しそうに笑い返した。