第59章 呼び名
「俺だって五虎退の兄弟だぞ!」
厚が騒動から抜け出してきてレンに詰め寄る。
あの喧騒の中でこちらの会話を聞いていたとは、恐れ入る。
「わたくし達もそれに近いですぞ!」
どこから出てきたのか、鳴狐も身を乗り出してきた。
「…って言われましても。厚さんはそもそもあまり話す機会がありませんでしたし。鳴狐さんは最初、敵意丸出しだったので、なんとなくそのまま。」
思ったままを口にしたレンに、ガンとショックを受ける2人。
レンは、そこまで落ち込むこともないだろうに、と少々困惑する。
「大将、呼び方。」
薬研は、さすがに気の毒になりレンを促した。
「えーっと…。厚、と、鳴狐、ですね。」
レンは思い出しつつ呼び直した。
すると、2人はぱぁっとみるみるご機嫌になり、レンの手をぎゅっと握る。
「わ、わからん…。」
レンは、ぼそりと呟いた。
「ね、ね、今度は安定って呼んでみて。」
レンの横から大和守がひょっこり現れる。
加州といい、大和守といい、何で覚えにくい下の名前で呼ばれたがるのか、とレンは内心げんなりする。
「…”大和さん”の方が…」
レンは言うだけ言ってみるも、
「安定がいいの。」
遮られ、ばっさりと言い切られてしまう。
レンは、折れた方が早いと踏んで素直に従うことにした。
「…安定。」
呼ばれた大和守は、ぱぁっとみるみるご機嫌になる。
「レン!大好き!」
大和守は横からぎゅうっとレンを抱きしめた。
もう、どうにでもなれと言わんばかりに、レンは無抵抗を決め込む。