第59章 呼び名
「…はぁ。やっと解放された。」
あの喧騒の中からどう抜け出したのか、レンは人の間を這うようにして出てきた。
「よぉ、大将。大人気だな。」
薬研は、這いつくばっているレンに視線を合わせて、にっと揶揄うように言う。
それを聞いてレンはげんなりした顔を見せた。
「いいように言ってくれますね。」
レンは、どたばたと喧騒を続ける彼等を見遣った。
「呼び名ひとつでそう変わるものでもないでしょうに。」
「大きく変わると思うけどな。」
薬研の隣に乱も並ぶ。
「僕も嬉しいです。五虎退さん、と呼ばれるよりずっと。」
五虎退が、レンを挟んだ反対側にしゃがむ。
「…そういうものでしょうか?」
レンは首を傾げながら体を起こした。
「そういや、何で俺達だけ呼び捨てなんだ?」
「ボクも気になる。」
「何でですか?」
3人は揃って尋ねるが、
「…何でだっけ…?」
レンは首を傾げる。
指摘をされて、はじめて気が付いたのだ。
彼女は記憶を辿り、それぞれ初めて会った時のことを思い出す。
「…五虎退には割とはじめから懐かれていたような気がしてたし…、年下に見えたから、かな。」
初めて会った五虎退は、今よりもずっと辿々しくて幼く見えた。
「じゃあ、俺は?」
「薬研は五虎退の兄弟だし、助けた状況が状況だったので、なんとなく。」
薬研のことは、どこかでリヨクと重ねていて、他人事とは思えなかった。
「ボクは?」
「乱も2人の兄弟だし、割と和気藹々だったような…。だからなんとなく、ですかね。」
乱は、その人懐っこさのせいか、然程隔たりを感じなかった。