第59章 呼び名
そこへ近侍の三日月とレンが通りかかった。
書類を数枚持って2人で何やら話をしている。
「…なので、みか…宗近は、この書類を送ってください。あと、これとこれも。その他はまだ作成途中なので。」
「あい、分かった。」
「あぁ、そうだ…」
「「「「ちょっと待った!!!」」」」
廊下の内側を歩いていたレンは、すぐ横からの大声にびくりと体を揺らして驚いた。
今、レンは何と言った?
三日月のことを呼び捨てで、しかも下の名前を呼んでいなかったか…?
「ちょっ…!今の何!?」
加州は思わず立ち上がる。
「普通に仕事中ですが。」
レンは何事かと不可思議そうな顔を向けた。
「名前で呼んでた!」
続いて大和守も立ち上がる。
「みんなのことだって名前で呼んでるじゃないですか。」
「そうじゃないだろ!?呼び捨ての上に下の名前で呼んでたじゃないか!」
厚も堪らず立ち上がる。
「え…。だってそう呼べってこの人が。」
レンはそう言って、三日月を指さした。
「「「「み〜か〜づ〜き〜!」」」」
下の名前どころか、さん付けで呼ばれている面々は、三日月に詰め寄った。
軌道上にいたレンは、すっと横に避難する。
「俺等だってまだ、さん付けなのに!!」
「言えば良かろうに。この主は快く聞いてくれるぞ。」
三日月はのらりくらりと鶴丸に返す。
「わかってるけど!そんなん頼めばいい事だって!でも何で三日月がしれっと先越してるんだよ!!」
加州の涙目の訴えに三日月は首を傾げる。
「何故、それほど怒るのだ?俺は些細な願いを言っただけだろう?」
それを聞いて、加州と鶴丸は地団駄を踏む。
「「怒ってない!悔しいんだ!」」
人はそれを嫉妬と呼ぶ。
「まぁ、落ち着け。」
「レンみたいなこと言ってるし…。」
楽しそうに笑う三日月に、厚はがっくりと項垂れた。