第59章 呼び名
「なんかずるい…。」
厚は思わず、ぽつりと呟いた。
「なんだなんだ?どうしたんだ、みんなして。」
そこへタオルで汗を拭きつつ、鶴丸と獅子王が現れた。
どうやら稽古をしていたらしい。
「鶴さん、お疲れ様。獅子王君も。」
「あぁ、ありがとう。で、何の話してたんだ?」
燭台切の労いに獅子王は気分良く答えてから、問いかけた。
「レンは人によって呼び方が違う、って話だよ。」
太鼓鐘が苦笑する。
「俺も前々から気にはなっていたんだ。光坊は割と最初から呼び捨てだったのに、俺達の呼び名は一向に変わらないんだ。」
鶴丸は、仲良くなればその内に親し気に呼んでくれるだろう、と勝手に思っていた。
だから、今になってもよそよそしく、さん付けで呼ばれているのは少し寂しく思っていたのだ。
「あれ、言ってなかったっけ?僕は呼び捨てで呼んでって最初に言っておいたんだ。」
にこやかに言う燭台切を、鶴丸は目を見開いて驚き見る。
「この感じだと、レンって言えば呼ぶけど、言わないと永遠にさん付けで呼びそうだよな。」
太鼓鐘は、後ろ頭で手を組んで少し寂しそうに言う。
「…そうだったのか…。仲直りした後に言っておくんだった。」
あの時なら恥はかき捨てで何でも言えただろうに。
今更、呼び方を変えて、とは何だか気恥ずかしくて言いづらい。
「僕も早くに言っておけばよかった。」
「俺も。」
大和守と加州もしょんぼりしながら頬杖をつく。