第58章 鶴丸の願い
三日月の体から黒い靄、邪気が出はじめる。
「……!」
レンは慌てて刀を振り払い、後ろに飛んで距離を取った。
「殺してやる…!」
三日月から溢れ出す黒い靄は半透明の触手のようになり、レンを捕まえようと伸びていく。
「レン!逃げて!」
乱は思わず叫んだ。
三日月はひたと乱を睨み、触手を向けようとするが、スパン!と何かに切られてしまう。
「あなたの相手は私ですよ。」
それが余計に三日月の怒りを買い、靄が更に濃くなる。
彼の後ろにはぼんやりと大きな鬼が透けて見えた。
三日月はレンを見据え、睨みつけると再び彼女に触手を伸ばす。
「影分身の術。」
レンは影分身を1体出すと、それを身代わりとする。
触手は影分身の胴体や手足に絡みつき、ぎりぎりと締め上げた。
幾らも経たない内にボン!と音を立てて消えてしまう。
「風遁、カマイタチ。」
レンは三日月の死角から躍り出た。
「く……!」
風の刃が三日月を取り巻き、美しい衣と一緒に、顔に手に傷を付けていく。
三日月は風を少しでも避けようと、腕で顔の周りを覆う。
パキパキパキパキ…
どこからともなく音が聞こえて来た。
と思ったら、足元が何かに包まれ動けなくなった。
「何…!?」
見る間にそれは広がり、足を覆い、胴を覆い、手を覆う。
冷たい…氷だ。
「やれやれ…。」
声の主に目を向けると、レンだった。
「これは、お前がやったのか。」
三日月は、憎悪を隠す事なく、レンにぶつける。
「そうですよ。」
三日月は、何とかして拘束を解こうともがくも指1本も動かせない。
「離せ!小娘!」
「嫌ですよ。めんどくさい。」
レンは三日月の怒りに触れても歯牙にもかけなかった。
三日月が動けないのを確認すると、固唾を飲んで見守る彼等に向き直る。