第58章 鶴丸の願い
「ちょっ、ちょっと待てって!」
「何ですか?」
鶴丸の焦りに振り向きもしないままレンは答える。
「どこ行くんだ?」
「鍛刀部屋ですよ。最後の思いつきを試すんです。これで反応がないなら打つ手がありません。」
鶴丸は三日月の事だと気がついた。
レンが三日月の鍛刀に何日もつきっきりだ、という話はもはや周知の事実だ。
もう、かれこれ1ヶ月は経つだろうか。
「…ずっとやってくれていたんだな。」
「ずっとやっていますよ。うんともすんとも言わないので、どうにも出来ないんです。」
鶴丸は胸が温かくなった。
三日月のことは元々半分は諦めていた。
けれども、僅かに希望があるならと足掻きたかっただけだ。
それを彼女は全力で足掻いてくれている。
それが凄く嬉しかった。
鶴丸は、前を歩く彼女の手をぎゅっと握り返した。