第58章 鶴丸の願い
「無理をしているわけではありません。ただ…。」
“もう一度会いたい。会って話がしたい。”
苦し気にそう言った鶴丸を思い出す。
「…会いたいって、言ってたんです。鶴丸さん。」
「鶴さんから、大体のことは聞いたよ…。」
燭台切も何となく事情は知っていたが、語りたがらない鶴丸からそのことを切り出すのは気が引けて、今まで聞き出せずにいた。
それをレンに頼んだことにも少し驚いた。
「私も…、気持ちは分かるから…。」
レンとて、リヨクに会える手段があるならば、何でも試したいと望む。
例え望みが薄くとも、僅かな可能性に縋りついていただろう。
もう一度、その声を聞く為に。
「レンちゃん…。」
燭台切は痛まし気にレンを見る。
レンはそれに気づくと、ぱっと空気を変えた。
「なので、別に平気です。気になってついつい手をつけちゃうだけですよ。」
レンは桶に汲んであった水で手を洗うと、燭台切が持って来たおにぎりに手をつけた。
一口頬張ったおにぎりから昆布が出てきた。絶妙な塩加減と海苔のいい匂いがいっぱいに広がる。
「ゆっくりおあがり。」
美味しそうに食べるレンを燭台切は優しく見守る。
どうかこの2人の願いが叶うといい。
いや、叶ってほしい、と燭台切はそっと思った。