第58章 鶴丸の願い
「さて、戻りますか。」
「そうだな。残りの仕事を片付けないとな。」
レンは徐に立ち上がると、近侍の鶴丸も立ち上がる。
がんばって、等と言われながら、レン達が部屋に戻ると薬研が待っていた。
「よぉ、大将。ごくろーさん。」
「遠征はどうでした?」
「無事完了した。褒美も貰って鍛刀部屋に片付けてあるぞ。」
「お疲れ様でした。怪我人はいませんか?」
「少し傷を負ったが、塗り薬で対処できているから大丈夫だ。」
そう言って、薬研は共同で作った塗り薬を見せる。
「大きな怪我がなくて良かったです。では、その様に報告しておきます。」
「頼む。…なぁ大将。鍛刀は順調か?」
それを聞いて、レンは少し困ったような様子を見せる。
「やり方は覚えましたが…、一兄はまだですよ?」
「だよな…。そう簡単には顕現するとは思っちゃいないが、どうにも期待しちまってな。」
レンが一期一振の夢を見たと聞いた時、粟田口の兄弟は驚きと喜びに包まれた。
もしかしたら、とそんな期待をしてしまうのは薬研だけではない。厚、乱、五虎退も同じようで、レンが鍛刀作業に入ると必ずと言っていい程、その様子を見に来るのだ。
「こればっかりは、くじ引きに近いようですからね。失敗の確率も高いですし。ましてや一期一振さんは中々顕現しないと聞きますからね。」
レンは控えめに話す。
「そうだろうな。まぁ、気長に待つさ。大将も俺達のことは気にせずやってくれ。」
レンは頷き、薬研はそれを見て席を立つ。