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君に届くまで

第58章 鶴丸の願い



何が悲しいって、それなりに信頼関係が出来ていると思っていた主から嘘をつかれていたことが悲しいのだ。
だが、異界生まれの主にはそれが伝わらない。

「じゃあ、本名は何でいうの?」

加州は項垂れながら、問いかける。

「さぁ…。私も自分の本名を知らないので。」

レンはのらりくらりと答えた。

「「え…?」」

これまた、重大発言に2人は揃って面を上げた。

「私は小さい時の記憶が無いので。自分の本名なんて忘れました。」

レンは何でもない事のように言う。

「ちょっ…と、それって…。」

加州は言葉が続かず、鶴丸は絶句する。

「レンという名はリヨクから貰いました。それ以降私は本名の代わりにこの名を使っています。
魂縛りの呪は相手の真名を使うんでしょう?確か、真名は魂と結びついているから、でしたっけ?
なので、仮名の私には魂縛りの呪は効きません。」

淡々と言うレンに、2人はしょんぼりと肩を落とす。

「そうなんだ…。そんな悲しい理由があったなんて…。」

「辛かったな…。」

「いえ、全く。寧ろ、どこら辺が悲しいんでしょう?」

レンは、不可思議そうに肩を落とす2人を見る。

「だって悲しいじゃん。追われることがなかったら、レンは郷で静かに暮らせてたんでしょ?そしたら真名を忘れることもなかったじゃん。」

「そうだな。自分の真名を忘れる程の辛いことがあったってことだろ?」

「へぇ…、そうなんですか…。」

加州と鶴丸の説明に、レンは気のない相槌を打つ。

「まるで他人事だな。」

「…聞く気ある?」

鶴丸は呆れ、加州は半眼でレンを見た。

「ありますよ。ただそこまで落ち込むのが分からなくて。
真名なんて知らなくても大して生活に影響しませんでしたし。」

レンは肩を竦める。
それを聞いて、2人は思わずため息をついた。

ーそういうことじゃないんだけどな…。

「まぁ、いいや。レンが気にしてないものを気にしたってしょうがないしね。」

「だな。」

加州と鶴丸は、さっさと結論を出して話を片付けた。

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