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君に届くまで

第57章 宴



他愛のない話を暫くしてから、薬研は頃合いと踏んでレンに切り出す。

「さて、大将。そろそろ戻るか?」

「そうだね。みんなも心配してたよ?」

薬研と乱はレンを宴に戻そうと試みる。

「いえ…、私はもう少しここにいます。」

レンは穏やかに言いながら首を横に振った。
それを見て、2人は心配そうに彼女を覗き込む。

「レン、やっぱり…。」

乱が呟くように尋ねるのを見て、レンは再度首を振る。

「引きずってはいませんよ。励まして貰いましたから。」

レンは淡く笑う。

「ただ、少し…、もう少しだけ風に当たっていたいだけです。」

レンはそう言って時々吹くそよ風に目を閉じる。
2人はその様子を見て、顔を見合わせた。

「もう少ししたら戻りますから。先に戻っていてください。
あ、ついでに私のご馳走確保しておいてもらえますか?」

レンはいつも通りの飄々とした風に、2人に頼み事をし出した。

「あ、あぁ。それはいいが…。」

「本当に大丈夫なんだよね?」

薬研と乱は、少し困惑気味にレンを見る。

「はい。もう大丈夫です。」

レンは穏やかな様子でしっかり答えた。
2人は再び顔を見合わせると、わかったと答えて、その場を後にする。

何度か後ろ髪引かれるように振り返りながら去っていく薬研達を見送り、姿が見えなくなると一息ついた。
次いで、レンは腰掛けていた側の東家の外を覗き込む。

すると、罰が悪そうにしている鯰尾を見つけた。

「…何か御用でしょうか?」

取り敢えず話しかけるも、鯰尾はちらりとレンを見ては俯いてしまう。

「…言いたいことがあるのでは?」

不可思議そうに問うと、気まず気にそろりとレンを見上げた。

「その…。」

そう言って、口元を開いては閉じを繰り返し、何か言いた気にするのを、焦ったく思いながらも辛抱強く待つ。
だが、やはり何も言わず俯いてしまう。
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