第57章 宴
「あれ、嬉しかったなぁ…。そんな風に、唯一無二に思われてるなんて思わなかったから…。」
乱は涙を滲ませた目を細める。
粗雑に扱われ、替えがきく消耗品のように扱われた日々。
その苦しみが、その時すっと晴れた。
「俺も、嬉しかったな…。凄く、こう…。…凄く、満たされた。」
薬研も少し目を細めて優し気にレンを見た。
折れずにいて、生きていて良かった…、と心からそう思えた。
「だから…。他の誰かにとって疫病神でも…、それでもいいさ。俺にとっては福の神だから。」
レンは驚いたように身を起こした。
「そうだね。誰かにとってはそうでも、ボク達にとっては違う。
たとえレン自身がそう思っていたとしても、ボクの思いは変わらない。
ずっと側にいて、これからも一緒に笑い合いたいと思う。」
薬研の、乱の真っ直ぐな言葉に、レンの中に温かい何かが込み上げる。
暖かな春風が冷たい雪を溶かすように、レンの中の蟠りが溶けていく。
「…いつか、後悔しますよ…?」
涙を誤魔化すように、レンは態と憎まれ口を叩く。
「そうかもな。けど、後悔しないかもしれない。未来のことなんて誰にもわからない。だろ?」
「だね。未来は決まってないもんね。」
そう言って、薬研と乱は朗らかに笑った。