第57章 宴
カサカサカサ…
足音や衣擦れの音がレンの耳に届き、思考が中断された。
レンは上体を起こすと、辺りに視線を巡らせる。
人の姿はないが気配がある。
レンは立ち上がって東家を出ると、すぐ脇にしゃがみ込んで様子を伺っていた薬研と乱を見つけた。
彼等は揃って気まずそうにレンを見上げている。
「あー…。何してるんですか?」
聞かない方がいいのか、と思いつつレンが問いかけると、
「「いや、こっちのセリフだから。」」
と揃って返ってきた。
レンは言い淀む。
そうは言われても、別段話すことは何も無い。
「…そういえば、宴は?」
「抜け出してきたぞ。」
「レンが気になるんだもん。」
それを聞き、レンはいよいよ困って頬を掻いた。
薬研と乱は立ち上がると、レンを東家に戻して座らせ、自分達もレンの両側に座った。
「え…?あの…。」
レンは所在なく2人を振り返る。
「何があったんだ?」
薬研は確信を持って問いかけるも、レンは困ったように見返すだけだ。
そのよそよそしさに、2人の中に若干の不安が漂う。
「聞かせてよ、思ってること。どんなことでもいいからさ。」
乱の言葉に、レンは困惑しながらも答える。
「いや…、大したことじゃ…」
「それでも。それでも聞きたい。レンが今思ってること知りたいよ。」
乱はレンの手をぎゅっと握った。
レンは乱を見返すと、ゆっくり息を吐き出した。
「…本当に大したことじゃないですよ?」
「うん。」
「昔のことを思い出してただけで、面白い話ではないですし。」
「昔話だったら、尚更興味あるな。」
薬研も合いの手を打つ。
「ボクも聞きたいな。」
乱は微笑んだ。
「…考えが纏まってなくて。上手くは話せませんよ?」
レンは背もたれに体を預けると欄干に頭を乗せて青空を見上げる。
「いいんじゃないかな。取り留めがなくたって。」
乱の言葉に、再び思いに耽る。