第57章 宴
見ると、鶴丸だった。
彼は心底疲れたようにため息をつく。
「…レン、キミが勝ったんだよな?」
「まぁ、そうですね。」
「なら、キミが頭を下げるのは可笑しくないか?」
幾らそれが人間の筋なんだとしても、自分の主が刀剣に頭を下げるのは、見ていて居た堪れない。
賭けをした以上、ここに住まうことは戦利品として堂々と主張してほしいものだ。
「そうですか?だとしても、私達が居候ってのも事実ですよ?」
だが、レンにはその常識は伝わらない。
「…つまり、居候だから頭を下げた?」
「昔、そう教えてくれた人がいました。
気持ちがあっても無くても、頭を下げとけば事が円滑に進むものだと。
所謂、ゴアイサツってやつです。」
平然と言ってのけるレンに、鶴丸は頭を抱えてしまう。
「それ、言ったらダメなやつ…。」
そういえば、そんなことも言われたような…。
レンは失言に気がついて、そろりと鯰尾を見た。
「…あー…、それは失礼しました…?」
鯰尾は、何て言ったらいいのかと逡巡した後、馬鹿馬鹿しくなり、脱力して肩を落とした。
一期一振は、益々肩を震わせて笑いを堪える。
レンは、腹を抱えている一期一振の後ろ姿を見て、ふと記憶が掘り起こされる。
「…あ、思い出した…。」
国会議事堂でのひと騒ぎの後、本丸で倒れて、再び目を覚ます直前に”夢で見た”のだ。
道理で思い出せなかったわけだ。
「何がだ?」
鶴丸は不思議そうにレンに尋ねる。
「話せば長くなりそうなんで、後で言います。」
レンはすっきりした様子で鶴丸に答えた。