第57章 宴
「勝つことだけが全てじゃない。
それに、お前が勝っていたらレンさんを追い出してしまうことになっていた。
それは七海さんの本意じゃない。」
その言葉を聞き、鯰尾は益々俯いた。
一期一振はそれを見て、困ったように笑う。
「だから、僕はこれで良かったと思っているよ。」
一期一振の静かなその言葉に、鯰尾は弾かれたように顔を上げると、悔し気に顔を歪める。
「でも俺は勝ちたかった!人間より優れていると証明したかった!」
狭量だとは思う。
たけど、ここまで来たら、もう意地だった。
そうなると、何が何でも認めたくなくなる。
一期一振は鯰尾のそんな内心を悟りつつ、しょうがないな、と言わんばかりに、くしゃくしゃと頭を撫でる。
「…あー…、お取り込み中すみませんが。
賭けは賭けなので、約束通り現状維持ってことで。」
レンが言うと、鯰尾はギリっと歯噛みする。
「本丸修復完了まで一同お世話になります。」
そう言って、レンは鯰尾に頭を下げた。
「…は?」
鯰尾は、奇妙な物を見るような目をレンに向けた。
普通、人間は何があろうと刀剣には頭を下げない。
人間にとって、刀剣は”使役するもの”だからだ。
一期一振もそれをぽかんと見る。
だが、レンはそんな事情など知る由もない。彼女はそれを湾曲して解釈し、鯰尾に半眼を向ける。
「…まさか、約束を反故なさる気で?」
それを聞いて、一期一振は吹き出して顔を背ける。
レンは、不思議そうに一期一振を見ては首を傾げると、隣からポンと肩に手を乗せられた。