第57章 宴
「そろそろ、人間にはキツくなってきたんじゃないですか…!?」
「どうですかね…!」
鯰尾はレンを挑発しながら油断を誘うが、彼女は全く取り合わない。
レンは飛び上がりながら剣を繰り出し、鯰尾は難なくそれを受け止めるも、レンはその反動を利用して、弧を描いて鯰尾の背後を取りにかかる。
鯰尾はそれを目で追っていると、彼女は飛びながら何やら手元で手話のような動きを見せた。
「……?」
警戒しながらも見ていると、
「……!」
冷たい氷の雨が降りかかった。
次いで一瞬で頭がぼんやりとしてしまう。
鯰尾は片手で顔を覆いながら、ぐらりと後ろに蹌踉めいた。
レンは地面に降り立つと同時に持っていた木刀を投げつける。
だが、鯰尾はそれを見切って払い除けた。
次いで前方を見遣ると、いる筈のレンの姿が消えていた。
彼は視線を巡らせてレンの姿を探すも見当たらない。
すると、ひたと木の感触が首に当たり、鯰尾は目を瞠る。
「王手、ですね。」
後ろから、レンの声がかかった。
鯰尾は負けを悟った。
「そこまで。」
一期一振の声がかかり、ぽつりぽつりと、詰めていた息を吐き出す音がする。
レンはその声を合図に木刀を下ろした。
一期一振は、俯いている鯰尾の肩にポンと手を乗せる。
「鯰尾、もういいでしょう?大健闘だったじゃないか。」
彼は、鯰尾を宥めるように頭を撫でる。
「でも…、俺は…。」
だが、鯰尾は納得が出来ないでいた。
それもその筈。
剣で負けたのならいざ知らず、騙し討ちのような格好で負けたのだ。