第57章 宴
幾らもしない内にトンとレンの背に木の幹の感触が伝わった。
レンは僅かに驚く素振りを見せる。
すると、鯰尾は次の一手が決め手になると確信した。
「これで最後だ!」
彼は思い切り振りかぶり、胴ががら空きとなる。
レンは、すかさず背を支柱にして両足を胴体に蹴り込んだ。
「……!!」
鯰尾は息を詰まらせ後ろに吹っ飛ぶ。
「これが私の武器です。忍は騙すのが本分、ですので。」
レンは冷たい目で鯰尾を見下ろしながら言う。
彼は咳き込みながら、憎々し気にレンを見上げた。
「…随分と卑怯な武器ですね。」
「何とでも。勝ち星が全ての世界で生きてきましたから。」
レンにとって勝利は”生”、敗北は”死”だ。
「なら、俺も油断は禁物ですね。」
鯰尾は徐に立ち上がる。
レンは再び斬りかかる鯰尾の太刀筋を見極め、刀を両手で持って受けてから、そのまま右に払い鯰尾の胴体に隙を作る。
次いですかさず右手を打ち込んだ。
鯰尾の体に衝撃が振動して広がる。
「……!この…!」
鯰尾は払われた木刀を切り返して振り上げた。
その剣はレンの頬を僅かに擦って空振りに終わる。
鯰尾は若干驚きつつも、振り上げた木刀を再び斬り下ろす。
カン!!!
小気味好い音を響かせ、鯰尾の一手は鍔迫り合いとなった。
「くっ…!」
レンは、段々と鯰尾の速さに対応出来るようになっていた。
「やるじゃないですか…!」
「それはどうも…!」
レンはそのまま押し返して上段蹴りを繰り出す。
だが、鯰尾は見切って難なく躱す。
次いでレンは足払いを繰り出し、短剣を持ちながら掌底を突き出し、中段蹴りを繰り出すも悉く躱される。
「あなたこそ、やりますね…!」
「褒めても無駄ですよ…!」
攻撃を繰り出しては躱され、を互いに繰り返し、一進一退が続く。
時々、レンの一手が打ち込まれ、鯰尾が少し蹌踉けることがあるくらいだった。