第57章 宴
広間の庭先で二つの影が相対する。
「勝負は1回切りでいいですね。」
鯰尾はそう言って、脇差を模した木刀を構える。
「はい。異存はありません。」
レンも借り受けた短刀を模した木刀を構えた。
それを見た一期一振は大きくため息をついて、徐に手を挙げる。
「はじめ!」
声がかかると同時に2人は駆け出した。
一手目で互いに斬りかかり鍔迫り合いとなるが、レンが押し負け、後ろに飛ばされる。
ストンという音を響かせ、レンは木の幹にしゃがみ込む。
鯰尾は少し驚きつつも、追撃する為レンを追いかけるように駆け出した。
「そこだ!」
予想を超えた速さで突きを繰り出され、レンはぎりぎりで直撃を避け、木の幹から地面へと弧を描いて飛び移る。
鯰尾はそれを目で追いながらレンの位置を把握して、すぐさま身を翻す。
「逃がすか!」
鯰尾は斬撃を繰り出し、レンはそれを全力で受け止める。
少し後ろには押されたものの、今度は何とか踏み留まれた。
力は鴉よりはやや劣る。
だが、速さは段違いだ。
油断していると、即首を取られるだろう。
「…少しくらい張り合えるからといい気になっていると痛い目見ますよ…!」
「生憎と、私の武器は短剣ではありませんので…!」
「なら、何だって言うんですか…!」
言いながら、鯰尾は鍔迫り合いから撃ち合いに持ち込み、レンは紙一重でそれを受け止める。軌道を読むだけで精一杯で防戦一方になってしまう。
レンは後ろへ後ろへと下がり、かかる力を去なしながら太刀筋を見極め、ぎりぎりの所で躱していく。