第57章 宴
けれど、長谷部だって重症とまではいかなくても、それなりに怪我を負っていた。
仕方がないことだと思う。
そこまで考えが至って、あぁ、と長谷部が言ったことを理解した。
俺は俯いた。
確かに俺達が着いた時には、レンさんが鴉と対峙していた。
それは、七海さんと長谷部を守る為だったのかな、と思った。
「あの時、実は危なかったんだ。
鯰尾達がこちらに着く直前に、レンさんは鴉に蹴り飛ばされて、殆ど身動きが取れなくなっていたんだ。
それでもあの人は、命懸けで俺や七海様から鴉を遠ざけた。
あんな豪気な人は初めて見るよ。」
「…それで、今回入院となったんですな。」
近くから一兄の声がして、長谷部は一兄の言葉に頷いた。
「だから俺は、”人”としてその恩に報いたいと思っている。」
“人”として。
顕現している俺達にとっては、甘美な響きだと思う。
ふと、空気が和らいだ。
たぶん、みんなの疑念や懸念が晴れたんだ…。
俺は納得がいかない、もやもやした気持ちを一人抱えることになった。