第57章 宴
「よかったですね、退院出来て。レンさんずっと退院したがってましたもんね。」
看護師が声をかけながら、レンのバイタルをとりはじめる。
「俺としては、もっと入院してくれてもよかったんですけどね。」
「ごめん被ります。暇は嫌です。」
瀬戸は横目でレンを見ながら言うが、レンはそっぽを向いて拒否を示す。
「あらら。でも瀬戸さん、肝が冷えたって言ってましたもんね。あの大怪我じゃあ、そう思うのも無理はないですけど。」
看護師は最初の状態を思い出して苦笑する。
「そうですよ。骨が肺に刺さってるって聞いた時には”終わった”って思いましたからね。寿命が縮まりましたよ。」
瀬戸はため息をつき、看護師はそれを見て笑う。
「あ、そういえば。最近レンさんにそっくりな人をよく見かけるんですよ。髪を後ろで三つ編みにした、色白の患者さん。一瞬ドッペルゲンガーみたいでびっくりするんですよ。」
「ドッペルゲンガー?」
瀬戸は看護師の言葉に聞き返した。
「そう。自分が同時に別の場所に存在するっていう、アレですよ。この間も、夕方に5階西病棟で見かけて。戻った時に思わず、レンさんに、5階病棟に行ったか聞いちゃったんですよ。」
「勿論、行ってませんよ。まぁ、私と似た人なんてよくいますよ。髪型が単調ですから後ろ姿なんて似たり寄ったりじゃないですか?」
レンが素知らぬ顔で答えるのを、瀬戸は疑わしい目で見遣る。
「でも、気をつけてくださいよ。ドッペルゲンガーを見たら寿命が縮まるって言われてるんですから。
絶対に無理に動かないでくださいね。」
「了解です。」
「では、後で退院のお手続について説明しますね。資料持ってきますから少しお待ちください。」
看護師は器具をワゴンに片付けると、にこやかに出て行った。
瀬戸は足音が遠ざかるのを確認してからレンを向く。