• テキストサイズ

君に届くまで

第57章 宴



「よかったですね、退院出来て。レンさんずっと退院したがってましたもんね。」

看護師が声をかけながら、レンのバイタルをとりはじめる。

「俺としては、もっと入院してくれてもよかったんですけどね。」

「ごめん被ります。暇は嫌です。」

瀬戸は横目でレンを見ながら言うが、レンはそっぽを向いて拒否を示す。

「あらら。でも瀬戸さん、肝が冷えたって言ってましたもんね。あの大怪我じゃあ、そう思うのも無理はないですけど。」

看護師は最初の状態を思い出して苦笑する。

「そうですよ。骨が肺に刺さってるって聞いた時には”終わった”って思いましたからね。寿命が縮まりましたよ。」

瀬戸はため息をつき、看護師はそれを見て笑う。

「あ、そういえば。最近レンさんにそっくりな人をよく見かけるんですよ。髪を後ろで三つ編みにした、色白の患者さん。一瞬ドッペルゲンガーみたいでびっくりするんですよ。」

「ドッペルゲンガー?」

瀬戸は看護師の言葉に聞き返した。

「そう。自分が同時に別の場所に存在するっていう、アレですよ。この間も、夕方に5階西病棟で見かけて。戻った時に思わず、レンさんに、5階病棟に行ったか聞いちゃったんですよ。」

「勿論、行ってませんよ。まぁ、私と似た人なんてよくいますよ。髪型が単調ですから後ろ姿なんて似たり寄ったりじゃないですか?」

レンが素知らぬ顔で答えるのを、瀬戸は疑わしい目で見遣る。

「でも、気をつけてくださいよ。ドッペルゲンガーを見たら寿命が縮まるって言われてるんですから。
絶対に無理に動かないでくださいね。」

「了解です。」

「では、後で退院のお手続について説明しますね。資料持ってきますから少しお待ちください。」

看護師は器具をワゴンに片付けると、にこやかに出て行った。
瀬戸は足音が遠ざかるのを確認してからレンを向く。
/ 1263ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp