第57章 宴
「レンさん、幾ら何でも死の呪いまでかけるのはやりすぎよ。江藤にかけた呪は解くべきだわ。」
「と、言われてもねぇ。」
レンはのらりくらりと答えながら、袋の中をがさごそと漁る。
「お前な、真面目に聞いとけ。このままじゃ、立つ瀬がないぞ?」
瀬戸が忠告をするのを、レンは微妙な顔で見遣る。
「だから、殺してませんて。殺すつもりもないし。」
「じゃ、何で術を解かないんだよ?」
レンは困ったように頬を掻いた。
出来れば言いたくはなかったが、これだけ言い募られると逆に面倒だ。
「あれ、幻術の類なんで。あの時言ったような効果は無いので解きようがないんですよ。」
「「「「は?」」」」
加州以外の面々は、怪訝な表情を浮かべる。
「やっぱりな。なんかあると思った。」
加州は納得した様子を見せた。
「ちょっと理解が出来ないわ。どういうこと?」
七海が問い直すと、レンはベッドに腰掛け、大和守から綺麗にカットされた林檎を受け取る。
「まぁ、早い話しが”はったり”ってやつですよ。よって、私は術を解けないし、誤解を解く気もありません。」
レンは楊枝で林檎を刺すと口いっぱいに頬張る。
蜜入のようで、とても甘い。しゃくり、しゃくりと瑞々しい歯応えと共に、爽やかな甘い果汁が、まるでジュースのようだ。
「えぇ〜!?江藤死なないの?」
「こら、不謹慎だぞ。」
大和守は至極残念そうに言い、長谷部がそれを諌めた。
「何でよ。あんな奴首落ちて死ねばいいんだ。」
大和守が頬を膨らませて不貞腐れる。
だが瀬戸は腑に落ちない。
「うそだぁ。お前本気だったじゃねぇか。あの目は薄ら寒くなる程冷え冷えとしてたぞ。」
瀬戸の言葉に、長谷部も、うん、うん、と同意する。
「そりゃそうでしょうよ。殺す気で相対しなきゃ、脅しにならないじゃないですか。」
レンは、シャクシャクと林檎を食べながら答える。
「そんな心構え一つであの目が出来るものなの?」
七海までもが半信半疑のようだ。