第57章 宴
「そう言えば、江藤にかけた術。あれ解除してやれよ。死ぬのはさすがに後味が悪すぎる。」
瀬戸は嫌そうに言う。
「いやいや、死んでないじゃないですか。」
「けど、いずれ死ぬんだろ?」
レンと瀬戸のやり取りに、大和守は加州達の話を思い出す。
「あぁ。レンが江藤の奴に氷の呪いをかけたっていうアレ?」
「そう、それよ。幾らあいつが極悪人だとしても、レンが人を殺すところなんて見たくないだろ。
殺した証拠が無くても偏見は残るしな。」
「今更じゃないですか?一人や二人殺したことにされてもどうってことないですよ。」
レンはベッドから下りてテーブルの上に置かれた差し入れ袋を漁り始めた。
「…お前は今更でも、俺等にとったら初めて見ることなんだよ。少しは人様の目を気にしろ。」
瀬戸は呆れながらレンを見る。
その時、個室のドアが開き七海と長谷部が現れた。
「あら、空斗さんも来ていたのね。
こんにちは。調子はどう?」
「すこぶる元気です。早くここから出たいです。」
「まだ言ってるのね。それだけ元気なら心配することもなさそうね。」
七海は、ここに置いておくわね、と言いながら備え付けの棚に盛り沢山の果物籠を乗せる。
「お前からも言ってくれよ。」
瀬戸はだらんと四肢を投げ出した格好で、七海を見上げる。
「何の話?」
七海は瀬戸の隣のソファーに腰掛ける。
「江藤の話だよ。レンが呪いをかけただろう?」
「あぁ、あれね。」
そう言って、七海はレンを見る。
レンは丁度、林檎を洗って齧り付こうとしているところだった。
「レンさん、お行儀が悪いですよ。」
長谷部はパシッとレンの手を取ると、するりと林檎を奪った。
ムッとして長谷部を見上げるも、彼は困ったように肩を竦めるだけだ。
「僕がやるよ。」
大和守が長谷部から林檎を受け取り、果物ナイフで皮を剥いていく。