第56章 七海の奪還
「ならば、お前も、お前の家族も。代わりもいくらでもいるってことになるな。」
「…は?」
突然の話の方向変換に江藤は戸惑う。
「私がお前等の家族の情報をどこで得たと思う?
実際に見に行って聞いて来たんだよ。これが何を意味するか分かるか?」
そこでレンは言葉を区切ると、ニヤリと嗤った。
変化の術の印を組むと、江藤千尋に成り代わる。
「……!」
江藤は息を呑んだ。
「もしも、知らない内に本物と入れ替わったら、その本物はどうなるだろうな。
もしも、この姿で後ろから刺し貫かれたら?」
そう言って、印を組んで氷柱槍を生成する。
「こんな風に。」
言いながら、レンは素早く氷柱槍の切っ先を江藤の眉間に突き付ける。
「ひっ…!」
江藤は反射的に後ろに下がった。
それを見ていた奥脇はレンを睨みつける。
「やってみるがいい。それをすれば社会から抹殺されるのはお前の方だ。二度と日の目を見れなくなるぞ!」
それを聞いて、レンは氷柱槍を解いた。
「なら、証拠が残らなければいい。」
そう言って、レンは別の印を組むと、半透明な何かを掴んだ。杭のようにも見える。
「これが何か分かるか?」
そう言って、ひたと江藤を見据える。
外見は妹なのに妹とは似ても似つかない。
その目は深く昏い深淵を思わせた。
「し、知るか!」
江藤は得体が知れず、ぶるりと身震いすると、一歩後ろに下がった。
その瞬間、レンは目にも留まらぬ速さで江藤との距離を詰めた。そして、持っていた何かを胸にねじ込むように叩き入れ、即座に後ろに飛んで離れた。