第56章 七海の奪還
「レン、といったか。君は。」
瀬戸補佐官はレンに歩み寄り、話しかける。
「はい。」
「何か弁明はあるかね?」
「弁明とは?」
「この部屋の惨状を見て、何とも思わないことはないだろう?」
そう言われて、あぁ、と納得する。
「お言葉ですが、七海さんの身の安全が保証されていたのなら、ここまですることはありませんでした。
不可抗力だと反論します。」
「つまりは態とでは無いと?」
「はい。鴉がいなければもっと穏便に済んだと思います。半分は鴉のせいです。」
瀬戸補佐官は、それを聞き、ぐっと押し黙った。
レンも譲らないし、譲れない。
瀬戸は七海の安全確保を頼んだ筈だ。それを守らなかった落ち度が無いとは言わせない。
暫しの睨み合いの末、折れたのは瀬戸補佐官の方だった。
彼は大きくため息をつく。
「…まぁ、いいだろう。鴉が出て死人が出なかっただけマシと言うことだろうな。」
「それで、奥脇の対処は?あれだけの所業を行って、尚且つ自身の娘まで殺しかけといてお咎め無しはありませんよね?」
以前、レンは人徳に難ありと瀬戸補佐官から判じられている。それを思うなら、今回の奥脇の一件は何なんだ、と逆に問いたくなる。
この問いかけに、瀬戸補佐官は何とも渋い顔を浮かべた。
本来ならば、この様な公の場で未発表の社内報道を伝えるのは憚られる。
言わない、という選択肢もあったが、それではレンは納得しないだろう。