第56章 七海の奪還
「双方止まれ!」
聞き覚えのない声が部屋に響いたが、当然止まれるわけがない。
今止まれば負けるのは僕だ。
この2人は強い。
後ろの鶴丸達2人は放っておいてもどうってことないけど、この2人は気を抜けない。気を抜いたらあっという間に喰われる。
僕は人間が嫌いだ。
特に清らかなものが大嫌いだ。
僕を生み出した人間が憎い。
封印する奴等が憎い。
さもありなん、と僕を紛い物扱いする奴等が憎い。
審神者は悪だ。
神気などクソ喰らえだ。
何にも知らないくせに。
守られているだけのくせに。
清浄というだけで何もかも許されるなんて反吐が出る。
殺してやる。
審神者は皆、いなくなればいい。
僕は骨喰と鯰尾の太刀筋の隙を縫って鶴丸に斬りかかった。
案の定、受けるだけで精一杯だ。
更に身を翻して大倶利伽羅を弾き飛ばし、一気にあの女との距離を詰める。
ガキン!
意外だな。加州が割り込んで受け止めるなんて。
ザシュっ
肉を絶つ音がして、全身に激痛が走った。
見ると、氷の棒が脇腹から後ろに突き刺さっている。
更に、ドン!と胸に強い衝撃を受けて後ろに吹っ飛んだ。
驚いて見ると、あの女が見えた。
どうやら蹴り飛ばされた様だ、とそこで初めて気がついた。
ザシュっ
背中に焼けつくような痛みを感じた。
「終わりだ。」
骨喰か。
僕はそのまま仰向けに倒れ込んだ。
コツ、コツ、コツ…
靴音がして見上げると、見覚えがあるような無いような男が立っていた。
人間なんだろうな。
「私は止まれ、と言った筈だ。」
そう言って僕の胴体に何かを貼り付けた。
たぶん、封印札だ。
目が霞んでくる。
「人間、風情が…。」
僕は、その人間に悪態をつく。
眠い。
目が閉じてしまう。
僕は逆らうことが出来ずに、ゆっくり目を閉じた。