第56章 七海の奪還
「今度は前田じゃないんだ。」
「前田様は任を解かれている。もうここにはいない。」
江藤は封印の紙札を剥がし、鴉を顕現させた。
「へぇ。で、僕を起こしたのは何で?」
「例の審神者が来ている。意味が分かるか?」
鴉は途端に狂気的な笑みを浮かべる。
それを見て、江藤はぞくりと背筋が泡立った。
「そうなんだ。起こしてくれてありがとう。」
鴉は嬉しそうに刀を取って歩き出す。
その様は悪魔を彷彿とさせる。
「…居場所を聞かないのか?」
「必要ないよ。感じ取れるから。」
鴉は振り返ることなく部屋を出て行った。
バタン、という音が聞こえた瞬間、江藤は思わず詰めていた息を吐いた。
何度相対しても肝が縮むようだ。
江藤は気を取り直して電話をかける。
ここを抑えてしまえば、あの女は袋の鼠となる。
やっと始末できる。
「俺だ。そちらはどうだ?」
『拘束しました。』
それを聞いて、江藤はニヤリと笑う。
「そうか、よくやった。絶対に新田を逃すなよ。」
『わかりました。』
相手の了承を聞き届けると電話を切る。
「ははは…。やった…。ついにやった…。」
江藤は嬉しさを抑えられず、ぎゅっと拳を握り込んだ。
「江藤さん、大変です。瀬戸補佐官自らが北の棟5階に向かったそうです。」
江藤はオフィスに戻るなり連絡を受け、浮き足立った。
「補佐官がか?有り得ない。だってあの人は日和見の筈だろう?」
自ら動くことなんて今まで無かったことだ。
これは吉か凶かどちらだ?
「奥脇様に伝えるべきではありませんか?」
「あぁ、そうだな。お前が伝えといてくれ。俺は一足先に向かう。」
「わかりました。」
嫌な予感がする…。
江藤は胸騒ぎを覚えつつ、急いで部屋を出た。