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君に届くまで

第2章 時空を越えて


結果、誰一人として屋内から出てこない。
人が全く動かないのだ。

日は傾きかけている。もうすぐ夕方になりそうだというのに夕食の支度をする気配も、誰かが帰ってくる気配もまるでない。
無人なのだろうか。こんな広い屋敷なら管理する人間を置きそうなものなのに、一人も置かないなんて…。

中に入って調べてみようか。

先ずは屋敷に近づき、塀の周りをぐるりと回ってみる。特に何か仕掛けてあるわけではなさそうだ。
次に正門に回ってみる。やはり人の気配がまるでない。
正門から中に手を伸ばすが、特に何も感じられない。
入ってみても良さそうだ。

門を潜り、一歩中に入る。
その瞬間、ぞくりと背筋が泡立った。
さっきまで感じなかった禍々しい空気がレンの肌を刺す。

「なん、だ?これは。」

レンは急いで門の外に出たが、先程と打って変わって禍々しい空気が漏れ出していた。

「さっきまで何も感じなかったのに…!」

何かの罠にでも嵌ってしまったのだろうか。その割には何の手応えも無かったが…。
何も気づけなかったなんて、と歯噛みする。
急いでその場を離れ、山を駆け上がると茂みに身を潜め、屋敷の様子を伺った。

空はいつの間にか茜色に変わりつつある。
体調は朝よりも芳しくない。
せめて傷薬か食料が欲しいところだ。兵糧丸があれば尚いいが。



日が完全に沈み、辺りは夕闇に包まれた。
レンは意を決して、もう一度屋敷に近づくと、そのまま塀を越えて中に侵入した。

中に入り、改めて分かった事がある。
禍々しい空気は変わらずだか、人の気配があった。
昼に来た時は、人の気配が全く無かったはずなのに。
それも一人二人どころではない。十単位の人の気配だ。

「どうなっているんだ。」

なるべく塀の近くを人の気配を避けて通る。
これだけの人が暮らしていて、火の気配がまるで無い。本当に生きているのかと疑ってしまう程、動きが無いのだ。
まるで幽霊屋敷に迷い込んだ様な気分だ。
早くここから立ち去りたい気持ちを抑えながら探索を続ける。
怠い身体も相まって気分は最悪だ。

暫く進んで行くと、角端に建つ棟の塀側の戸口が開け放たれているのを見つけた。
慎重に中を伺うも灯りも人の気配もない。
足音をなるべく消して中に入ると、そこは厨だったらしい。
戸棚や引き出しを物色していくが、ほとんどが空だ。
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