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君に届くまで

第2章 時空を越えて



「本当に幽霊屋敷だな…!」

悪態をつきながらも、なんとか生米と少しの人参を探し出し、戸棚にあった麻袋に詰め込むと、厨を後にした。
そのまま近くの塀を飛び越えて、一気に山中に駆け戻ると、少し離れた川辺に身を潜める。
とてもじゃないが、あんな気味の悪い所で一晩休もうとは到底思えなかった。
レンはそれ以上何もする気になれず、ズルズルと倒れ込む様に木の根元に腰を下ろして気を失う様に眠りについた。










空が白み始める頃、息苦しさに目を覚ます。
ぼんやりしながら手元を見ると、昨日の麻袋が目に入った。

ーそうか。昨日の夜、屋敷に忍び込んで…。

昨日のことをつらつらと思い出す。

レンは大きく深呼吸すると強張った体をほぐす様に立ち上がる。だいぶ熱が高いらしい。尋常じゃない寒さだ。体の節々も痛む。
とにかく、これ以上は危なくて山に留まれない。この状態ならばまだ屋敷近くに身を置く方が安全だ。
気は進まないが、もう一度屋敷まで行くしかなさそうだ。

ふらふらとした足取りのまま、山の斜面を倒けつ転びつ下りていく。いつの間にか遠くの山際から太陽が登り始めていた。
レンは、たったこれだけの距離もまともに進めなくなっている事に危機感を覚えた。

「なりふり構ってられないな。」

もう一度屋敷を訪ねてみようと決意する。
住人がいるなら助けを求めるしかない。
このままではどちらにしろジリ貧だ。ならば助かる可能性が高い方がいい。

レンは重い体を引きずりながら壁に沿って正門を目指す。
もう壁を越える力すら残っていなかった。

相変わらずの嫌な空気だ。
この中に入るのかと思うと不安しかない。

正門まで来ると荒くなった呼吸を整え、恐る恐る一歩を踏み出した。
とりあえず誰も出て来なそうだ、と判断し、昨日は避けて通った内側を歩いてみる。
渡り廊下の下を潜りつつ棟から距離を取りながら進んで行く。なるべく棟には近づきたくはない。

形だけ見ると綺麗な建物だと、レンは思う。
手入れをして色を塗り直せば、さぞ見栄えのする絢爛な建物になるだろうに。

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