第56章 七海の奪還
「レンさん…!」
長谷部は近づくレンに気づき、声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「はい。動けないことはないので。」
レンの言葉を聞いた加州は益々仏頂面を作る。
「ぜんっぜん、大丈夫じゃないから。肋骨折れてるんだって。」
「え゛!?」
長谷部は思わず声を上げた。
「大丈夫です。加州さんが支えてくれるんで。」
「ち、が、う、だ、ろ!根本が間違ってるって言ってるんだ!」
加州は苦言を呈すが、レンはすっとそっぽを向く。
それを見た長谷部は苦笑いを浮かべた。
「それより、手がかりはありましたか?」
レンの問いかけを聞き、長谷部は沈んだ面持ちで視線を下げて首を振る。
「とっかかりも何も?」
「はい。色々見て回ったんですが、これといった手がかりは無く…。」
長谷部は悔しそうに唇を噛んで、ぐったりしている七海を見る。
すぐそこにいるのに触れられないのは、何とももどかしい。
「そもそも何がどうなってるの?」
状況が分からない加州はレンに尋ねる。
「ここに透明な壁が張られていて、中に入れません。長谷部さんが言うには、壁から七海さんの神気をかなり多く感じるそうです。
で、七海の様子から、七海さんは神気を吸い取られているんじゃないかと推測します。」
「え゛?普通のことのように言ってるけど、それってかなり一大事だよね?」
「そうですね。意識も朦朧としているようですし、急いだ方がいいと思います。」
「レンが七海さん奪還に拘る訳はこれか…。」
加州は思わず額に手を当てた。