第56章 七海の奪還
中を見回すと、何もない部屋の奥には七海らしき人が横たわってピクリとも動かない。
レンは急いで駆け寄るも、途中で何かに阻まれる。まるで透明の壁があるようだ。
「七海さん!」
壁を叩いて呼びかけても反応が無い。
「七海さん!起きてください!」
レンは壁の解術方法が分からず、ひたすら呼び続けるしか出来ない。
部屋の中にいても、鴉が暴れている振動が伝わってくる。
この威力なら、いつ破られてもおかしくはない。
「…レン…さん…?」
七海を向くと、結界の向こうで首だけ動かし、レンの姿を探す。
「七海さん!」
レンは結界に張り付くように近寄る。
「七海さん、立てますか?今まずい状況です。早く逃げないと。この壁の壊し方わかりますか?」
レンは焦りから、早口で捲し立てるように尋ねる。
けれど、七海は意識が朦朧としているのか、視線が覚束ず、まともな答えが帰ってこない。
「…長谷部、は…?」
「長谷部さん、ですか…?」
レンは困惑気味に聞き返す。
ガシャン!!!コン、カン…
氷が割れる音が響く。
レンは冷や汗を流しながらも、スマホを取った。
相手は、新田だ。
「新田さん、今…」
『悪いな…、バレた。』
カチャリという音が電話越しに聞こえてきた。
おそらくは、銃でも突きつけられているのだろう。
レンは大きくため息をついた。
まるで踏んだり蹴ったりだ、と当たり散らしたくなる。
「…了解です。」
スマホを切ると、部屋の中を見渡した。
すると、七海の反対側に一振りの刀が落ちている。
ーまさか…。
レンは近づいていくと、刀に何か紙札が貼られていた。
この前、七海に教わった本丸封印の呪で使った札に似ている。
レンは迷うことなくその札を剥がした。