第56章 七海の奪還
ぶわり…
また、気配が濃くなった。
明らかに邪気だ。
何度感じても嫌な”気”だ。
出来ることなら、このまま投げ出して逃げてしまいたい。
レンは焦りつつも扉をぐるりと見回し、鍵穴があることに気がつく。
「クナイホルダー持ってくればよかった…。」
レンは思わずごちて、前髪をぐしゃりと掴んだ。
見張りなら持っているだろう、と当たりをつけて、レンは彼等のポケットや服を叩いて探る。
ガシャガシャン、と音がしてズボンのベルト通しに鍵がかかっているのを見つけた。
それを乱雑に取ると、7、8本の鍵が楕円形の金属の輪にジャラジャラと下がっている。
「おい!どれが鍵だ!」
レンは苛々と動きを封じた見張りに問い詰めるが、男は鼻で笑うだけで答えようとはしない。
ぶわり…
気配は段々近づいてきている。
もう時間がない。
「氷遁、雹硬壁!」
レンは時間稼ぎの為に、階段と部屋の前を遮断するように、氷で分厚い壁を作る。
唖然とする彼等を尻目に、レンは急いで正解の鍵を見つけにかかる。
ガチャガチャ、カチャン。
開いた…!
と思ったのも束の間、
ガン!!!
大きな打撃音が氷の壁から響いた。
「ねぇ、来てるんでしょ?遊ぼうよ。」
ガンガン!!!
やはり、鴉だった。
おそらくはこの壁を破るつもりなのだろう。
そう簡単に破れるとは思えないが、打撃音が響く度にパラパラと周りの壁から砂のようなものが降ってくる。
先に壁の周りから隙間が出来るかもしれない。
「お、おい!これ、解いてくれよ…!」
「た、たのむよ…!」
怯えきった見張り達はレンに懇願するが、何するか分からない者達を易々と離せるわけがない。
レンは相手にすることなく急いで部屋の中へ入ると、扉を丸々氷華縛で凍らせる。